研究室インタビュー

金沢工業大学 工学部 建築学科 建築エンジニアリングコース構法・材料 須田達研究室のサムネイル

現象を工学的に解明する

金沢工業大学

建築エンジニアリングコース構法・材料 須田達研究室

須田 達 教授

須田達教授は、木造・耐震をキーワードに研究を行っている。金沢工大・同大学院修士課程を修了したのち、京都大学大学院で博士号を取得した。その後、立命館大学を経て母校へ着任した。
「木造といってもいろいろな種類がある。特に興味があるのは、無垢の木そのものを使って建てる伝統木造。加えて言えば地域性の感じられる建物。金沢でいえば町家や武家屋敷など。古い建物には意外と分かっていないことが多く、これまでの知見を活かして、その時代や地域の建築文化が残せるといいなと考えている」と須田教授は話す。
「意外と分かっていないこと」とは、どのようなことを意味するのだろうか。「昔は大工さんが経験と勘で建物を作っていた。当時は建築に関するルールも法律もない。地域ごとに“この木を使うのが一番いい”という類の思い込みが存在する。そこに工学的なメスをいれて、本当はどうなのか、よりよくするにはどうしたらいいのかを考えて行きたい」と、須田教授は説明する。また、古い建物の耐震性について、客観的な評価をもって住民の不安に応える必要性も感じている。
須田教授は、その具体的な応答として『伝統的構法のための木造耐震設計法』の作成にも関わった。これは、大工・職人の経験則を科学的に実証した上で、現行の法体系のなかで利用可能な設計法として確立したものだ。
「現象を工学的に解明することが楽しい。研究テーマはそれぞれだが、根底にはその楽しさがある」と、須田教授は語る。

須田 達 教授

須田 達 教授

 

(すだ たつる)

1998年金沢工業大学工学部建築学科卒業。
2000 年同大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程 修了。
2000年京都大学防災研究所技術補佐員。
2001年木四郎建築設計室。
2007年京都大学大学 院工学研究科建築学専攻博士課程修了。博士(工 学)。
2008年立命館大学 グローバル・イノベー ション研究機構特別招聘准教授。
2012年金沢工 業大学基礎教育部基礎実技教育課程講師。同大 学環境・建築学部建築系建築学科講師、准教授 をへて2021年より現職。
専門は、建築構法、木 構造、耐震工学、建築材料。

現在進行中の研究

研究室では、伝統構法で使える制震ダンパーをメーカーと共同開発しているという。「これまで、地震時の変形が大きい伝統構法で使えるダンパーはなかった。また、壁が少ない伝統構法の建物では、補強部材は床下や天井裏に取り付けなくてはならない。その点でも工夫が必要だ」と、須田教授は話す。研究室では、震動台実験などをしながら、剛性が低く、地震の揺れを吸収できるダンパー開発を進めている。
また須田研究室では、各地の特色ある木造建物を調査して、構造的なアドバイスを行ってもいる。能登半島中部に位置する輪島市黒島地区重要伝統的建造物群保存地区では、2021年度に構造調査が勧められた。今年度は、これまで調査が及んでこなかった土蔵に着目。目下土蔵3棟を調査中で、年度内に構造評価までを目指しているという。
「土蔵の全数や被害状況が明らかでなく、地域全体の面的な調査が必要だ。土蔵は敷地の奥にあり、住民の協力が必須。まず3棟の調査をしてから住民に説明会をして、悉皆調査につなげたい。また黒島地区に合った改修方法が提案できたらいい」と須田教授は考えている。

インタビュー画像
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材料の研究

須田教授は、現在、木造耐震という視点から「材料」という新たなテーマにも取り組んでいる。
伝統構法に用いられる土壁は、地震時に壊れることでエネルギーを吸収する。しかし、崩れ落ちた後の処理が非常に大変だという。須田研究室では「崩れ落ちない壁をつくれないものか」という発想から、接着剤メーカーと共同研究を行なっているそうだ。
また、近代木造建築におけるコンクリート基礎の補強方法にも取り組む。丹後半島の与謝野町旧加悦庁舎は、昭和初期の木造建築で、日本の伝統技術と西洋からの建築技術が合わさって造られた。須田研究室で調査してみると、木部などは手の込んだ作りであるのに対し、基礎のコンクリートは非常に質が悪いことが判明した。このような建物が、他にも周囲に残されていることも分かった。
須田教授は、この質の悪いコンクリートを「低強度コンクリート」と名付け、ここ5年間ほど補強方法を探求している。「当時手に入る技術で一生懸命作られたものだが、質が悪く、構造安全性を考えれば改善しなければならない。まず実験をするには試験体が必要で、その質の悪い低強度コンクリートの試験体を作るのが難しく、3年程かかった。補強方法について、例えば、どれだけ増し打ちするとどれだけ圧縮強度が増えますとかなど、定量的に評価できるようにしたい」と須田教授は考えている。

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常なる問題意識を

卒業課題は論文だ。調査や実験には研究室全員で参加し、その後、希望者が成果を卒論などにまとめるという。「学生にはあまり口出ししない。手取り足取り教えるのは、本質として違うなという思いがある。最終的に卒論がある完成度に達しなかったとしても、自分で考えて取り組むということを重視したい」と須田教授は話す。
「工学技術者は常に問題意識を持つことが大切。なので学生には、常に頭の中にクエスチョンマークをもちなさい、と言っている。年々、目的意識が薄くなっているのを感じる。本来大学では、自分で問題意識をもって取り組むことが望ましい。それを我々がサポートする環境でありたい」と、須田教授は母校をへの思いを語った。

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研究室メンバーに聞きました

[ 質問項目 ]

建築に興味をもったきっかけや、須田研究室の魅力、将来のことについてお答えいただきました。

  • 上田 篤哉 うえだ あつや (学部4年)

    上田 篤哉 うえだ あつや (学部4年)

    「建築初級技術者のためのデジタル教育ツールの制作と評価」をテーマに、研究に取り組んでいます。バーチャルツアーを用いて施工現場を再現し、学生や初級建築技術者の方たちに見てもらい、その教育効果を評価します。

  • 大田原 寛太 おおたわら かんた (学部4年)

    大田原 寛太 おおたわら かんた (学部4年)

    「構造計算と耐震性能評価」が研究テーマです。 石川県輪島市黒島地区の土蔵の構造調査を行います。調査では、図面を作成したり、写真撮影を行なったりした後、限界耐力計算によって変形角を求め耐震性能を評価します。

  • 丹生屋 俊介 にうのや しゅんすけ (学部4年)

    丹生屋 俊介 にうのや しゅんすけ (学部4年)

    コンクリートを打ち込んだ時に楽しいと感じたので、建築材料を研究している須田研究室に進みました。低強度コンクリートの補強効果に関しては十分に解明されていないので、さまざまな補強方法で試験を行い、解明を試みています。

  • 能村 拓真 のむら たくま (学部4年)

    能村 拓真 のむら たくま (学部4年)

    輪島市の土蔵の限界耐力計算を行い、耐震性能評価を踏まえたリノベーションが研究テーマです。能登は海産物が有名で近くにワイナリーがあるため、土蔵を、観光客を呼び込むワインの貯蔵庫にリノベーションすることが目標です。

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