研究室インタビュー

東海大学工学部建築学科 渡邉研司研究室 近代建築史のサムネイル

歴史に学び、研究と設計の両面から建築と向き合う

東海大学

渡邉研司研究室

渡邉研司 教授

「音楽が時間の芸術ならば、建築は空間の芸術である」と渡邉研司教授はいう。「中高生の頃は吹奏楽部でトランペットを吹いていて、高校1年と2年の時に全国大会に2年連続出場しました。建築を目指そうと思ったきっかけは、いつか自分が設計したホールで演奏を、と夢みる気持ちもありました。建築と音楽には感性で語る芸術としての共通性を感じていたのだと思います」

渡邉研司 教授

渡邉研司 教授

博士(工学)

(わたなべけんじ)

1961 年 福岡県生まれ
1985 年 日本大学理工学部建築学科卒業
1987 年 同大学院修士課程修了 芦原建築設計研究所勤務(~ 1993 年)
1995 年 AA スクール大学院建築史・建築論コース修了
1997 年 文化庁芸術家派遣在外研修員( 2年間)
1998 年 AA スクール大学院リサーチコース修了
1999 年 連健夫建築研究室勤務(~ 2004 年)
2000 年 DOCOMOMO Japan 副事務局長(現在代表理事)
2005 年 東海大学工学部建築学科助教授
2011 年 同工学部教授

歴史に学び、後の世に残る建築を考える

大学では近代建築史を専門とする近江栄教 授に師事。卒業後は建築家の芦原義信氏が主 宰する芦原建築設計研究所に勤務して設計活 動に従事した。その後、渡邉教授に大きな影響 を与える転機が訪れる。「ロンドンの建築学 校『AA スクール』に5年間留学しました。自分が日本でやってきたことをもう一度見つめ 直すという意味で建築教育の根本的な部分を 勉強しました」そこで近代建築保存記録組織 『DOCOMOMO』と出会う。渡邉教授は「1990 年代に良い近代建築が少しずつ壊されていま した。1920 年頃にできたモダニズム建築は 実験的な作り方をしていることもあり、傷みがひどいものも多く、そのまま放置すると廃墟に なってしまう。そこで建築的な価値をしっかり調査して修復しながら使い続けようというのが DOCOMOMO の考え方です」と説明し、現在 はDOCOMOMO Japan 代表理事をつとめる。 「建築は見て楽しむものではなく、使ってこそ生 きるものです。オリジナルとは変わっても、一番 重要なところはきちんと残す。今使う人たちの ために改修することで20 世紀のモダニズム建 築を残すことにもつながるのです」 DOCOMOMO の活動には渡邉研究室の学生が一緒に参加することもあり、修士論文でアントニン・レーモンド設計の伊勢佐木町にある不二家ビルをあつかった学生もいる。「ゼミで 図面や模型を作り、DOCOMOMO のセミナー で発表しました。歴史研究では調査だけでな く、結果を図面化したり模型化したりするのも 教育的には非常に大切なことです」 渡邉教授は全ての学問は歴史にきちんと着 目すべきだと考える。「どのように鉄筋コンク リートが生まれ、どう変わってきたのか。材料や 技術はこれからどう変化していくのかは歴史的 な視点に立たないとわからない。過去を学ぶこ とで初めて未来が見えるのです。また、歴史を学ぶことは自分を相対化し客観視するということで、建築家に必要な姿勢です。クライアントや建設業者の立場に立てるか。立場を置き換えて考えられるという資質はとても重要で、歴史を学ぶことでそれが身につくのです」渡邉教授自身が実務経験者ということもあり、渡邉研究室では卒業設計を選択することもできる。「論文と設計の学生が同じテーマに一緒に取り組み、歴史や建築家の理論を勉強するのはどちらにとっても有効です。研究と設計両方の観点を行き来しながらお互い高め合うことが理想です」

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ドローイングや旅からかつての建築家の足取りを追う

今年度前期のゼミではドローイングや旅を きっかけに建築家の足取りを追う建築家研究 がテーマになった。「ルイス・カーンやフランク・ ロイド・ライトのドローイングはたくさん残さ れていますし、ル・コルビュジエの『東方への旅』 は有名です。建築家がどういう日程でどんな旅 をしたのか、その時に使ったガイドブックは何 か、調べれば結構出てくるものです」 それが最終的に卒業論文のテーマにつなが る場合もある。「卒業論文のテーマで19 世紀 のドイツの建築家シンケルを取り上げている学 生がいます。シンケルも1830 年頃のイギリス 旅行で膨大な量のスケッチをしていますが、建築だけでなく人々の生活や当時のイギリスの繁栄の様子を描いていることがわかってきました」卒論のテーマとしては他に、考現学の今和次郎、ロシア構成主義のエル・リシツキー、ヨハネス・イッテンによるデザイン学校と日本画家竹久夢二の関わりなど、じつに多岐にわたっている。渡邉教授は「テーマはバラバラですが、それこそ建築の懐の深さを表しているのです」と言い、自身の学生時代を振り返る。「私の卒業論文のテーマは『近代日本における建築家職能成立史』で自分の今後の立ち位置への問いかけそのものでした。卒業研究は自分なりの問いを発見するプロセスであり、疑問をもつことのトレーニングなのではないでしょうか」

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枠にとらわれない豊かな心で建築を総合的に考える

渡邉教授が今注目しているのは、生命科学と建築学をニューロサイエンスでつなげる分野。「ニューロサイエンスというのは感じ方の学問で、空間をどう感じるかとか、心地良い空間とはどのようなものかを考える建築環境的な要素もあります。これを今まで自分が建築的にやってきたことと結びつけられないかと考え『スケッチで学ぶ建築文化史』という教科書を作りました。『西方への旅』として、自分が若い頃から書きためたスケッチも掲載予定です。歴史を学ぶ時に手を動かして自分で描いてみると、印象も違うし、より建築の流れが理解できます。それはニューロサイエンスとも通じています。手足を動かしながら、身体動作と目の神経をつなげる考え方です。ミラーニューロンという脳内領野と同様にスケッチニューロンがあるのではと考えており、建物そのものというより、デザインプロセスに建築への共感を導くニューロサイエンスを関連づけられるのではないかと考えています」ニューロサイエンスの例を見ても、渡邉教授の考える建築は守備範囲の広いものだ。「建築はどこからでも興味を持って目指せる分野です。"お勉強"だけでなくスポーツや音楽に打ち込んでいる人も伸びる世界です。それは、おそらくそういう人は身体と感情のつながりがちゃんとしているから。逆に、それがないと認知できないのが建築。デザインや設計で重要なのは感性です。感性は学校の授業では教わることはできず、良い絵を観る、良い音楽を聴く、いい建築を体感して育つものです。その体験の豊かな人は理系文系問わずいるわけで、そういう人たちに建築を知ってもらって、ぜひ、一緒に建築の世界を体験してもらいたいと思っています」。

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研究室メンバーに聞きました

[ 質問項目 ]

①渡邉研究室を選んだきっかけ
②渡邉先生の魅力
③自身の研究テーマ

  • 蘭毅さん ラン・ギ 修士2年

    蘭毅さん ラン・ギ 修士2年

    ①近代の有名建築と建築運動を研究することで建築のインスピレーションを得られると考えた。
    ②自分のやりたいことをして、自分のなりたい人になることが一番大切だと話してくれる。
    ③中国近代園林に関する調査研究史について

  • 遠藤和華さん えんどうわか 学部4年

    遠藤和華さん えんどうわか 学部4年

    ① 2 年次の建築研修でヨーロッパに行き、西洋建築に魅力を感じた。
    ②学生個人にあった指導をしてくれる。
    ③ドイツ人建築家シンケルについて

  • 布田翔一さん ふだしょういち 学部4年

    布田翔一さん ふだしょういち 学部4年

    ①これまで興味のなかった建築史の分野を卒論で突き詰めて研究しようと思った。
    ②学生の気持ちをくみ取りながら柔軟に話してくれる。
    ③ル・コルビュジエによる曲線の美学

  • 山本未來さん やまもとみらい 学部4年

    山本未來さん やまもとみらい 学部4年

    ①建築写真の研究をしたかった。
    ②建築だけでなく芸術分野にまで幅広い知識を持っている。
    ③ 1930 年代の建築写真

  • 植松美羽さん うえまつみう 学部4年

    植松美羽さん うえまつみう 学部4年

    ① 2 年次の建築デザインの授業でお世話になった。
    ②言葉による説明だけでなく、実物を見せて丁寧に教えてくれる。
    ③ロシア・アヴァンギャルドにおけるデザイン

  • 瓦林由衣さん かわらばやしゆい 学部4年

    瓦林由衣さん かわらばやしゆい 学部4年

    ①渡邉先生の授業でスケッチの楽しさを知った。
    ②近代建築の魅力を感じさせてくれる。
    ③今和次郎のスケッチの意義

  • 牧野海斗さん まきのかいと 学部4年

    牧野海斗さん まきのかいと 学部4年

    ①渡邉先生のモノの考え方や捉え方に強くひかれた。
    ②知識量が圧倒的。相談すればより良い案を提示してくれる。
    ③ 1960 年代イギリスのカウンター・カルチュア

  • 山本凜太郎さん やまもとりんたろう 学部4年

    山本凜太郎さん やまもとりんたろう 学部4年

    ①渡邉先生の授業でスケッチの考え方や重要性に興味を持った。
    ②考え方を押しつけず、サポートやアドバイスで協力してくれる。
    ③ヨハネス・イッテンの日本への影響

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