研究室インタビュー

液状化・斜面崩壊対策の詳細な現象解明
東海大学
|藤原覚太研究室
藤原覚太助教
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藤原覚太助教
博士(工学)
(ふじわら かくた)
1984年 大阪府生まれ
2007年 京都大学工学部地球工学科卒業
2009年 同大学院工学研究科都市社会工学専攻修士課程修了
2017年 岐阜大学大学院工学研究科生産開発システム工学専攻博士課程修了、学位取得
2018年 東海大学工学部助教
地震被害の現象を解明し、防災対策に生かす
2011 年3月の東日本大震災では、震源地か ら遠く離れた東京湾沿岸域でも地盤の液状化 が発生した。特に千葉県浦安市の液状化被害は甚大で、宅地の地盤沈下、ライフラインの損傷、寸断など市民生活に多くの影響を与えた。浦安市の約85%は東京湾の干潟を埋め立てた土地で、地盤改良が行われていなかったほぼ全ての地盤が液状化したと見られている。新潟中越地震(2004年10月)、熊本地震(2016 年4 月)、北海道胆振東部地震(2018 年9 月)などの地震、平成25年台風第26号 (2013 年10 月)、平成30 年7 月豪雨、令和2 年7月豪雨などの大雨では大規模な斜面崩壊 や地滑りが起きた。 藤原覚太助教は防災・減災ニーズの高まりに 対応し、地震工学、防災工学の視点から主に地 震を対象として被害の現象解明とより良い液状 化対策構造、斜面対策工法などの研究を推進。 液状化対策では、鋼矢板を使った地盤補強 工法のバリエーション拡大に向けた模型実験 や数値解析に取り組んでいる。


胆振東部地震での液状化被害㊧(札幌市)と斜面崩壊(厚真町)
鋼矢板を使った液状化対策のバリエーションを広げる
もともと鋼矢板は堤体および周辺地盤の沈下対策として使われ、鋼矢板の先端を支持層まで貫入する着底支持鋼矢板工法や、支持層まで貫入しないフローティング鋼矢板工法(FL 工法)、着底工法とFL工法を組み合わせた部分 フローティング式鋼矢板工法(PFS 工法)によ る河川堤防の補強が積極的に行われていた。 「熊本地震では河川や水路周辺の多くの地域 で液状化が見られましたが、鋼矢板で沈下対策 をしていた箇所は、液状化したものの地盤の変 位が小さく、液状化対策としての有効性が示さ れました。鋼矢板で地盤を挟み込み水平方向の 揺れを止めることで、液状化の原因となる含水 状態の地盤層のせん断を抑制します。既設の堤 防でも基本的に両側に鋼矢板を打ち込む対策 のため、構造物の一部を撤去したり離れた場所 から注入管を送り込んだりする地盤改良と比 べ施工性が高く、経済的に液状化対策を講じ ることができます」と藤原助教は、液状化リス クが高い地盤の事前防災として鋼矢板による 液状化対策工の有用性を説明する。
「一部を支持層深くまで打ち込み、残りは軟弱地盤層の途中までの長さにすると、全て同じ長さの鋼矢板を打ち込む場合より鋼材の量が減りコスト削減になります。一方、それぞれの鋼矢板への荷重が増えるため、最適な矢板の厚みや長さ、端部支持矢板の間隔などを明らかにするのが、本研究の目的です。液状化再現装置の中に対策工の縮小モデルを設置した実験を通し、各モデルの仕様ごとの液状化抑止効果や、端部指示矢板の隙間から漏れ出る砂の量などを数値解析しています」本研究は、国際圧入学会「PFS工法の適用条件の拡大と地震時挙動評価に関する技術委員会(TC3)」と題する委員会活動の一環で実施された。


鉄筋挿入工の長寿命化、効果向上へ
斜面防災では、鉄筋挿入工の対策効果の向 上、長寿命化を可能とする方法を研究。 鉄筋挿入工は、小さな削孔に高強度の鋼材 などの部材を挿入して定着させ、鋼材強度を利 用することで地すべり滑動力に抵抗する工法。 斜面の安定度を高める有効は対策工だが、経年 劣化や想定以上の自然災害に対する安全性な どでの課題が残されているという。 藤原助教は「鉄筋挿入工の負担を軽減でき れば、健全な性能の維持、想定外の豪雨・地震 下での対策効果の向上が期待できるのではな いか」と考え、部材の周辺に補強部材を設置す る方法を提案。長さ2000mm、高さ450mm、 奥行き500mm の土を入れた木箱を制作し、 部材周囲をシート筒で囲むケースと、斜面側上 部に棒状材料を設置したケースで、土を入れた 木箱を30 度に傾斜させたときの部材のひずみ 量を測定した。実験結果を解析したところ、両 ケースとも部材の応力が低下していることを把 握。引張られた棒の中では、元の形に戻そうと する抵抗力が働いており、単位面積当たりの抵 抗力である応力が下がれば、部材への負荷が軽 減され、劣化しにくくなり、寿命が伸びること となる。今後、保護材による応力低下の要因解 明を進めるとともに、斜面崩壊や豪雨に対する検討も実施していく方針。 本研究は、2020 年度~ 2022 年度の国際共 同研究加速基金「アンカー補強された三峡ダ ム周辺大規模地すべり斜面の長期的安定性評 価技術の熟成」と題する岐阜大学、富山大学と の共同研究の一部で実施された。


中国・三峡ダムの大斜面を対象にした共同研究も計画
共同研究では、中国三峡ダム周辺の地すべり変動を対象に、持続可能なモニタリングと安定性評価を行い、地すべり抑止のために設置された構造物の機能評価や、斜面の長期安定性を力学的に評価する手法を提案する。また同済大学、中国地質大学の実験設備を利用して、巨大外力作用時の地すべり抑止構造物の機能メカニズムを解明し、抑止工法として多用されるアンカー工と鋼管杭を対象に、高精度で安価な抑止機能計測システムの実用化と、得られた時系列データに基づく斜面安全性の確率論的アプローチ法を提案する計画だ。「日本ではあり得ないような大規模斜面での研究ができる」と意気込んでいたところに、新型コロナウイルス感染症が世界中にまん延。中国現地での研究が行えない状況が続いている。

ゼミ学生は3班体制で研究活動
藤原研究室では、堤防や壁などを対象にしたマクロ的な液状化研究と、鋼矢板の隙間を砂がすり抜ける実験装置を使ったミクロ的な液状 化研究の2 班と、斜面研究1班の3 班に学生を 分けて研究活動を行っている。 指導で心がけているには、学生の自発的な学 習意欲をかき立てるために、あえて小さなスト レスを与えること。「卒業論文をまとめるには、 研究や実験に基づく分析や解析が必要です。自 ら行動して多種多様な現象論を理解し、基礎的 データや知見を習得してほしいと思います。南 海トラフ地震や東南海地震、首都直下地震の発 生が危惧され、地球温暖化で気象災害が激甚 化している中で、卒業後は、この研究室で学ん だ防災に関する知見を生かしながら、元気に社 会で活躍してくれることを期待しています」。
研究室メンバーに聞きました
[ 質問項目 ]
①藤原研究室を選んだきっかけ
②藤原先生の魅力
③自身の研究テーマ
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浅野樹さん あさの いつき 学部4年
①行っている研究テーマに興味を持った。
②誰にでも分かるように細かく丁寧に教えてくれる。
③液状化 -
新谷風雅さん あらや ふうが 学部4年
①地盤分野に興味を持った。
②メリハリがはっきりしている。
③斜面崩壊 -
氏家大輝さん うじいえ ひろき 学部4年
①土について学びたかった。
②説明が分かりやすい。
③河川堤防の液状化 -
大石雄介さん おおいし ゆうすけ 学部4年
①構造物をつくる際に一番のベースとなるのが土だから。
②優しい。分からないところを基礎から丁寧に教えてくれる。
③河川堤防の液状化 -
川村永悟さん かわむら えいご 学部4年
①もともと液状化現象に興味があった。
②研究にとても熱心。先生について行けばたくさんのことを学べる。
③斜面崩壊 -
小林洸太郞さん こばやし こうたろう 学部4年
①授業が分かりやすく、自分がやりたい研究内容だった。
②説明の仕方が上手。
③河川堤防の液状化 -
関口翼さん せきぐち つばさ 学部4年
①就職したい道路関係の職種に近い研究ができそう。
②時には緩く時には厳しく、切り替えがきちっとしている。説明が分かりやすい。
③斜面崩壊 -
玉野大哉さん たまの だいや 学部4年
①施工の仕事に興味があり、研究テーマが将来の役に立つと考えた。
②気さく。説明が丁寧で分かりやすく、学生思い。
③地盤防災 -
干場奨太さん ほしば しょうた 学部4年
①学生への対応が良く、土質にも興味があった。
②説明の分かりやすさ。学生に寄り添ってくれる優しさ。
③河川堤防の液状化被害の対策 -
三富裕介さん みとみ ゆうすけ 学部4年
①講義が分かりやすく、人柄に魅力を感じた。
②理解できない学生に対し、分かりやすいように簡単な例をあげて説明してくれる。
③液状化における土の動きと鋼矢板の隙間の関係
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