研究室インタビュー

前橋工科大学 工学部 建築学科 三田村輝章研究室のサムネイル

時代のニーズに合わせた住環境を研究する

前橋工科

三田村輝章研究室

三田村 輝章 准教授

学生時代に住んでいたアパートで、結露被害に直面した経験から、環境工学の道を進んだ三田村輝章准教授。住まいの環境性能が現在ほど重視されていなかった頃から取り組んできた、住環境の研究変遷と展望についてひもとく。

三田村 輝章 准教授

三田村 輝章 准教授

博士(工学)

(みたむら てるあき)

1973年 福井県生まれ(愛知県出身)
2001年 東北大学大学院 工学研究科都市・建築学専攻 博士後期課程終了
2001年 東北大学大学院 工学研究科 教務補佐員
2002年 横浜国立大学 ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー 講師
2005年 足利工業大学(現・足利大学)工学部 建築学科専任講師-准教授

幼少期から大学入学まで、国宝・犬山城や博物館・明治村のある愛知県犬山市で生まれ育ったことから、歴史的な建築物に興味をもち、大学では建築を学ぼうと東北大学工学部への進学を決めた三田村輝章准教授。入学後は、建築家になりたいと思い建築学科に進むが、そのとき住んでいた宮城県仙台市の古いアパートでは、窓や玄関扉に発生する結露被害に悩まされることに。それが、環境工学を学びたいという動機につながったと話す。

「建築学科に来る多くの学生がそうであるように、私も最初は建築家を志して建築学科に進みました。ですが、2年生後期から始まった設計製図の授業では、デザインが上手な同級生がたくさんいて、自分はとてもかなわないと実感したのです。

そういったなかでいろいろ考えると、自分は設計製図よりも構造力学や環境工学といった、計算や物理現象を扱う科目のほうが好きだということに気づきました。と同時に、当時、住んでいたアパートの結露を解消するにはどうしたらいいのか知りたいと思い、環境工学の道に進むことにしたのです」東北の冬は厳しく、冬の朝には窓ガラスや玄関扉の表面についた結露水が流れ落ちて凍りつき、窓や玄関が開かなくなるといった現象も起きたという。お湯で氷を溶かすといった後付けの解決ではなく、住まいの構造を変えることでその問題を解決できないかと考えたそうだが、三田村准教授が学生だった当時は、住まいへの要求が令和の現在とは大きく異なっていた。

「建築雑誌に紹介されていたコンクリート打ちっぱなしの集合住宅を見て、見た目はかっこいいけれど、外部も内部もコンクリート仕上げで、中に住む人は寒くないのかと疑問をもちました。寒い室内で過ごすことが健康に悪いということなど、一般には知られていなかった時代です。ですが、阪神・淡路大震災以降に建物の耐震化が注目されるようになったのと同様、最近では、冬に暖かい住宅に住むことが健康につながることや、コロナ禍以降は室内換気の重要性が叫ばれるようになりました。このように、住まいへのニーズは、時代と共にどんどん変わってきています。私が大学院生になった頃は、ちょうど“シックハウス症候群”が大きな社会問題になり、室内化学汚染物質の調査や換気システムに関する研究がさかんに行われ、各住宅メーカーもシックハウス対策を積極的にアピールしていました。その後、東日本大震災以降は省エネルギーに加えて、屋根に太陽光発電パネルを載せてエネルギーを創り出すZEH住宅(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス=エネルギー収支を年間で差し引きゼロ以下にする住宅)が注目され、現在は国の施策として普及が進められています。また、ここ数年では、地震以外にも台風や集中豪雨により、電気やガスなどのインフラへの被害が増加しているほか、電気代など光熱費が高騰していることもあり、私の研究室では、エネルギーの自給自足を目指して、太陽光発電と蓄電池、EV(電気自動車)を連携させた住宅システムの研究をハウスメーカーと共同で行っています(写真①)」

インタビュー画像

環境工学の分野では、さまざまな民間企業と手を組み共同研究を展開

環境工学の分野では民間企業との共同研究が活発で、三田村研究室でも様々なテーマに取り組む。「10年以上前から県内のハウスメーカーと共同で行っている研究に、アレルギー対策住宅の開発があります。ぜんそくやアトピー性皮膚炎といったアレルギー性疾患は、住環境との関連が指摘されていますので、薬に頼るばかりではなく、住環境の改善で対策ができないかという研究です。たとえば、ぜんそくは空気中に浮遊するカビやダニなどを含む“ハウスダスト”が発作を引き起こす原因の一つとされていますので、空気清浄機能を搭載した全館空調・換気システムを開発し(図①)、その効果について実証しました。また、群馬大学医学部の先生とも協力し、医学と建築学の医工連携での研究も行いました。私たち建築の研究チームだけだと、調査内容はアレルギー対策住宅への転居前の住居と転居後での室内環境を計測して比較するに止まります。ですが、医学の専門家と連携し、居住者の血液検査を行ったり、呼気中の一酸化炭素の濃度を調べてもらうことで、ぜんそく症状の重篤度を把握することができるようになります。その結果、開発したアレルギー対策住宅では室内環境が転居前よりどの程度改善し、それによって居住者のアレルギー症状がどの程度緩和したのかまでわかるようになりました(図②)。このような、医学と建築学の両面からアプローチする研究は、当時、国内では珍しいケースでした」

大学と企業の産学連携、さらに医工連携の研究に携わる学生たちは、とても貴重な体験をしているといえる。なかには、自身や家族がアトピーやぜんそく症状があり、悩みを解決したいという思いで三田村研究室の門を叩く学生もいるそうだ。

「自分自身が花粉症だとか、アレルギーを持っている家族がいるとか、そういった学生が研究内容に興味をもって私のところにたずねてくるケースもあります。研究テーマは基本、その時々で研究室で取り組んでいるものを中心に進めていますが、時には、学生からの提案を採用することもあります。過去には、祖母が住んでいる古い家を断熱改修した場合の効果について調査した学生がいました。また、バイオミミクリー(生物模倣)という自然界の仕組みから学んだことを技術開発に活かすことに興味があるという学生の希望で、サボテンの仕組みを建築にとりいれるといった研究を行いました。サボテンは乾燥地帯に生息し、その畝(うね)のある形状や特殊な光合成により、温度の上昇と水分の欠乏を防いでいるといわれています。そこで、サボテンの形状と呼吸の仕組みとしての夜間換気をオフィスビルに適用した建物モデルを作成し、冷暖房エネルギーの削減効果について数値シミュレーションによる検討を行いました」

インタビュー画像

地球環境、エネルギー問題に建築分野でも取り組むことができる

三田村研究室での研究は、学外との連携のみならず、学内の他研究室とのタッグでも行われている。それぞれの研究室の特性を生かしたテーマに取り組むことで、多角的な成果を得られることが垣根を超えた研究の利点だ。

「バウビオロギーを研究されている石川(恒夫)先生とは、自然素材でできている土壁を取り上げ、その調湿性能や蓄熱性能を共同で調査しました。昔から日本の住宅でも使われてきた土壁ですが、土は蓄熱性能が高く、土鍋のように温まりにくいけれど、一度温まってしまえば冷めにくい性質を持っています。しかし、土壁だけでは断熱性能は低いので、冬は寒くなってしまいます。そこで、長野県内の工務店とも協力し、土壁の屋外側に同じ自然素材の断熱材として羊毛を施すことにより、断熱性能を確保すると同時に、土壁のもつ蓄熱性能を発揮できる“ 現代版土壁”の実験住宅を建設して、その効果について調査しました(写真②)」

そういったさまざまな研究では、三田村准教授は、現場調査に重きを置く。

涼しさ、明るさ、臭いなどの環境要素をどう感じるか、 そして本当に快適なのかを体感することが大事です。 建物の性能は、住宅の場合、断熱性能を表すUA 値 (外皮平均熱貫流率)がよく用いられますが、UA 値 が小さいからといって“ 断熱性能に優れています”と か“ 省エネ基準を満たしています”といっても、その 建物の室内が本当に快適な環境なのかはわかりませ ん。ですので、実際の建物を対象に調査を行い、研 究します。たとえば、高断熱・高気密住宅は、冬は 暖かく快適であるといわれていますが、一方で湿度は 低く、乾燥して困っているという問題も指摘されてい ます。私の研究室では、過去に群馬県内の約400 件の住宅を対象にした暖房設備と住まい方に関する アンケート調査を行いましたが、からっ風で有名な群 馬県は、関東平野の内陸部に位置し、冬は空気の 乾燥が激しいため、半数以上の住宅で室内空気の 乾燥を感じているという調査結果が出ました(図③)」
「住まいに対する価値観は人それぞれ」と前置きした上で、三田村准教授は今後の展望を語ってくれた。「最近は、私が驚くぐらい、住宅の環境性能について勉強されているユーザーさんもいらっしゃいます。やはり、建築、特に人が生活を営む住宅は、住んだ後にどう暮らしていけるかが重要です。以前は、快適性と省エネルギーの2点が重視されていましたが、最近は、それらに加えて健康性も重視されるようになり、さらに2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、建築にも環境への配慮が必須になる時代が到来するでしょう。地球環境やエネルギーの問題は非常に大きなスケールの課題ですが、建築分野においても貢献することができるということを、これから大学を目指す受験生や建築業界で働くことになる学生たちにも理解してもらえるといいなと考えています」

インタビュー画像

インタビュー画像

インタビュー画像

研究室メンバーに聞きました

[ 質問項目 ]

①研究室を選ばれたきっかけ
②先生の魅力
③ご自身の研究テーマ

  • 真下琴里さん ましもことり(学年4年)

    真下琴里さん ましもことり(学年4年)

    ①環境工学系の授業を受け興味を持った。
    ②就職活動等の面倒をよく見てくれる。
    ③床下・壁体内空気循環工法の全館空調住宅における温熱環境の実証

  • 石井萌渚さん いしいまお(学部4年)

    石井萌渚さん いしいまお(学部4年)

    ①天気や気象状況に興味があり建築とのつながりを感じた。
    ②授業のわかりやすさとゼミでの指導がよい。
    ③CLT造倉庫の調温調湿性能に関する実測調査

  • 砂田悠希さん すなだゆうき(学部4年)

    砂田悠希さん すなだゆうき(学部4年)

    ①暮らしに関わる重要な分野と知り、学びたいと思った。
    ②気軽に接しやすく、陰からしっかりサポートしてくれる。
    ③住宅におけるダンプネスの評価とシミュレータの開発

  • 宇佐美太一さん うさみたいち(学部4年)

    宇佐美太一さん うさみたいち(学部4年)

    ①素材に興味があり、関連する内容を学べると思った。
    ②研究のペースが遅れないようサポートしてくれる。
    ③換気カプセル法による家具表面の吸放湿量の測定

  • 中田貴之さん なかだたかゆき(学部4年)

    中田貴之さん なかだたかゆき(学部4年)

    ①環境系を選び、その中でも環境設備に魅力を感じた。
    ②気さくで、話しかけやすく、親身に相談にのってくる。
    ③大学講義室における室内温熱環境と省エネ化

  • 野村颯太さん のむらそうた(学部4年)

    野村颯太さん のむらそうた(学部4年)

    ①建築の中でも環境・設備の分野に興味があった。
    ②研究内容、プレゼンや資料作成、さまざま指導してくれる。
    ③太陽光発電・蓄電池・EVを連携させたZEH住宅の性能検証

  • 木村秀斗さん きむらしゅうと(学部4年)

    木村秀斗さん きむらしゅうと(学部4年)

    ①旅行が好きで移動中の快適な過ごし方に興味があった。
    ②距離感がとても良く、親身になってくれる。
    ③ダイナミックインシュレーション窓を用いた集合住宅の断熱改修

本記事内容は、こちらからもダウンロード可能です。

本記事内容掲載PDFデータ