研究室インタビュー

東北工業大学工学部建築学科 錦織真也研究室のサムネイル

“居心地の良い空間”を創り出せる経験を

東北工業

錦織真也研究室

錦織 真也 准教授

「子どもがいる家庭の休日の滞在先 は公園とショッピングセンター、ファミリーレストランで約7 割以上を占めるそうです。美術館や図書館に行く親子連れは少なく、一方でこういった施設に 行きたいという要望もあります。寛容 性が高く、誰にとっても居心地が良い 公共施設はほとんどないのではないでしょうか」と話すのは4 歳の子どもを 育てながら、建築士として、教育者として教壇にも立つ錦織真也准教授。東北工業大学ではインテリアデザインを 中心とした建築設計についての研究・ 講義を担当している。配置や形状で、 意識・無意識問わず利用する人に影響を与えるインテリアを探求するきっかけは、学生時代にまで遡る。

錦織 真也 准教授

錦織 真也 准教授

(にしこり まや)

2003年-2008年 株式会社伊東豊雄建築設計事務所
2010年-2012年  東北大学工学研究科人間・環境系都市・建築デザイン学講座 助手
2016年-  小川錦織一級建築士事務所 共同設立
2022年-  東北工業大学 建築学部 建築学科 准教授
趣 味 料理とヨガ

大学入学時は生物学を専攻

丹下健三が設計した市役所やホールのある愛媛県の今治市で生まれた錦織准教授が進学したのは現在住まいを構える仙台市の東北大学。進学先として関西の大学なども検討したものの「街が大きすぎて、密度が高く、田舎暮らしだった私には馴染みませんでした」と仙台で学生生活を始めた理由について語っている。
錦織准教授が東北大学で最初に研究していたのは生物学。得意な教科だったので成績は良かったものの「実験を繰り返すのが肌に合わなかったので、続けられないな」と感じてしまう。進路について悩む中、新しくできた本屋で不意に手に取った建築の雑誌や作品集を読むと「幼少期、奈良の東大寺のスケッチをしたり、父の知り合いが建築関係だったりと、建築が身近にあったことを思い出し、(建築を)学びたいと思いました」と生物から建築にピボットした理由について話す。
その後、高校生の物理の教科書から勉強をし直し、見事、東北大学の建築学科に編入を果たす。仙台で建築を学ぶ中、建築家・伊東豊雄氏の代表作の一つである図書館「せんだいメディアテーク」が2000年に竣工。建設中の工事現場で所在地の学生として国内外から仙台を訪れる見学者の案内を手伝ったことや授業などがきっかけで、伊東豊雄氏と面識ができ、のちに伊東豊雄氏の事務所で働くことになる。

世界的建築家・伊東豊雄氏との出会いでインテリアの道へ

インテリアについて造詣を深めたのもこの頃からで、内部のデザインが人に与える影響などについて学ぶことになる。「メディアテークの内部は天井の高さが階によって異なるほか、照明の色や家具、カーテンに至るまで、世界的デザイナーのデザインを取り入れていました。建築を学び出した学生の時にこういった経験を体験できたのは非常に刺激になりました」と振り返る。
その後、東京藝術大学で建築を学ぶ傍らメディアを横断する芸術表現を研究する先端芸術表現学も学んだあと、伊東豊雄建築設計事務所に入社し、建築士として実務経験を積むことになる。

震災で被災した校舎の設計に奔走

再び東北の地に戻ってくるのは2010年。
古巣である東北大学の工学研究科の助手となる。そして1 年後には東日本大震災を経験する。ちょうど自身が在籍する工学部の校舎が被災したため、仮校舎の設計に携わることとなる。「1 年足らずで9 ,000㎡の建築物を造ることになったため、設計の実務が忙しくなかなか被災地に足を運ぶ機会がありませんでした」と回想する。

良い空間とは何かを意識し再現できる人材へ

2015年には夫婦で仙台市に一級建築士事務所を開設。仙台が仕事の活動拠点となる。東北工業大学で教鞭をとるのは2021年からで、設計の実務を生業とする建築士としての強みを生かし、建築・インテリアデザインを中心とした実践的な設計に取り組んでいる。
現在、ゼミで取り組んでいるのは公共空間における親子の行動調査。せんだいメディアテーク1Fを舞台に、被験者となる実際の親子を連れてきて、どういった動線で動くかなどを調査した。「せんだいメディアテークの理念が“あらゆるのバリアから自由である”となっているので、乳幼児の親子にとって何かバリアになる点があるのではないかと思い、検証しました」と話す。例えば、南側のベンチに親子が滞在している時間が少ないという結果が出たので「ベンチの背が浅いため、子どもが転倒してしまう可能性があります。もう少し奥行があるベンチにすれば、親子でゆっくり外を見ながら滞在できるはず」ということが調査を通して分かったという。今度は仙台市営地下鉄東西線国際センター駅の駅舎上部にある多目的スペース「青葉の風テラス」でゼミの学生と一緒に同様の調査を行う計画だ。
研究を通し学生に身に着けてほしいこと は“ 空間に対する感覚”だという。「例えば、 カフェに行く時、にいつも座る場所と座り たくない場所があったとすると、なぜ自分 が無意識その席に座っているのか、そこに は何かしらの要因があるはずです。席の配 置なのか、テーブルのデザインなのか。そ ういった日常的な行動でもしっかり観察す ることで、“居心地の良い空間”を意図的に 再現できるような感覚をゼミで身に着けて ほしいです」と期待を込める。核家族化な どによる世代間の分断により寛容性が失わ れつつあるという現代。“ 居心地の良い空 間”を実現するためにはハードとソフト双方 の改善が必要とされている。人の無意識に 働きかけ、老若男女が互いに理解し合える 「寛容な社会」を目指し、錦織研究室は歩 み始めた。

インタビュー画像
インタビュー画像

インタビュー画像

インタビュー画像

研究室メンバーに聞きました

[ 質問項目 ]

1 研究室を選んだ理由
2 研究室(もしくは先生)のよいところ(魅力)
3 自身の設計/研究のテーマ
4 10年後の自分(理想)

  • 菅野 暉 さん 学部3年

    菅野 暉 さん 学部3年

    2)錦織先生は設計に関しても、研究室でやりたいことも前向きに考えて検討してくださるので、自分達ものびのびと活動させてもらっています
    4)同級生や親戚などお世話になった方が家を建てるとなった時に、自分に任せてと言えるような設計士になっていたい

  • 佐藤 彩奈 さん 学部3年

    佐藤 彩奈 さん 学部3年

    1)自分が学びたい分野だったため
    2)いつも賑やかで何に対しても意欲的なところ

  • 白井 愛莉 さん 学部3年

    白井 愛莉 さん 学部3年

    1)建築だけではなく、インテリアや人と人の関係性などの空間についても学べる研究室だったから
    3)建物と空間が、人間の心理や地域に与える影響を追求し設計したい

  • 鈴木 優芽 さん 学部3年

    鈴木 優芽 さん 学部3年

    1)錦織先生の雰囲気と設計に惹かれたから
    2)ゼミ活動の内容をみんなで決めて動く所

  • 髙橋 りおさん 学部3年

    髙橋 りおさん 学部3年

    1)動線を表現した模型、そこから見える空間や居場所についての調査や設計に興味があったのと温かい雰囲気の錦織先生の研究室だからです
    2)全体的に柔らかい雰囲気が漂っており、非常に親しみやすいです。いつ研究室へ行っても誰かしらいるところが安心感があり、魅力です

  • 田中 堅太郎 さん 学部3年

    田中 堅太郎 さん 学部3年

    3)空間の曖昧な境界線や、生態系と融合した建築デザイン
    4)建築家として、自身がこれまでに、そして、これからの学びで培ってきたものを地元に還元できるようになっていたい

  • 田中 晴翔 さん 学部3年

    田中 晴翔 さん 学部3年

    1)研究テーマと自分が学びたい事が合っていたため
    4)安定した職業に就いてる

  • 畑山 豊 さん 学部3年

    畑山 豊 さん 学部3年

    2)他研究室と連携しながら様々な活動に取り組んでいること
    3)人の動線や空間の使い方、家具と人の関係性など

  • 山田 祐翔 さん 学部3年

    山田 祐翔 さん 学部3年

    2)みんな優しくて雰囲気が良い
    3)震災関連

本記事内容は、こちらからもダウンロード可能です。

本記事内容掲載PDFデータ