研究室インタビュー
力の流れに着目し合理的な空間構造を考える
金沢工業大学
|西村督研究室
西村督 教授
西村督 教授
(にしむら とく)
1987年金沢工業大学工学部建築学科卒業。1989年京都工芸繊維大学大学院工芸学研究科 建築学専攻修士課程修了。1992年同大学院博士課程
満期退学。博士(学術)。太陽工業株式会社空間技術研究所、太陽工業株式会社を経て2003年金
沢工業大学講師。准教授を経て2013年より教授。
専門は空間構造の数値解析。
「空間構造」とは
西村督研究室は、建築構造の中でもとりわ け「空間構造」に着目し、その動きと安定に ついて研究している。空間構造とは、「建物 の形が力の流れを表現している対象物」だと 西村教授は説明する。写真1、2は、空間構 造を用いた建築物の事例だ。トラスやラーメ ンと呼ばれる立体構造から成るスペースフ レーム、膜構造やケーブル構造、展開構造 (Deployable Structure)などが含まれる。 西村研究室に所属する学生は目下10名。 現在学生が進めている研究内容を具体的に紹 介したい。 写真3、4は、はりがねの枠に石鹸水を浸 けてつくる石鹸膜だ。西村教授によれば、 「石鹸膜は自然界がつくる合理的な形の一つ で、どの部位も同じ張力が働いている(等張 力曲面)」とのことだ。石鹸膜のこの性質は、 膜構造に応用ができるという。学生たちはコンピューターでシミュレーションを行い、さまざまな石鹸膜の形状を探求している。また、地震に強いが風には弱いという膜構造の弱点を強化する研究に取り組む学生もいる。通常、膜構造は内部に常時送風して圧力を保つが、強風や大雪時には外力に逆らえず潰れてしまう。そのような時に空気膜構造が崩れないために、どれだけの圧力を閉じ込めておくべきか、適正値を求めようというのだ。この他、震災時の避難施設ともなる小中学校の体育館に、地震時の振動を止めるダンパーを設置する研究や、人間の骨格の構造を応用して、屋根やアンテナなど大規模な建造物の耐震性を高める研究なども行われている。西村研究室では、金沢工業大学の各研究室が企画するライトアップイベント、金澤月見光路に、15年に渡り参加をしてきた。例年、秋の本番に向け、6月頃から準備が始まる。最初は一人一案ずつイメージを出し合い、会場の下見、何回かのスタディを経て、学生の投票により最終案を決定する。設計と制作は、学生が自ら行う。図5?7はコロナ禍の2020年、西村研究室が制作したオブジェだ。「とても難しかったと思う」と西村教授が評するこの作品は、大きさが少しずつ異なる木製リングが回転しながら組み合わさり、一つの立体を成している。木製リング同士は直接触れ合っておらず、テグスで緊結されている。立体の中心部に籐(とう)を巻きつけた弾力性のある球体を挿入することで、全体の釣り合いが成立する仕組みだ。学生は、木製リングが互いに接触しないために、部材の幅などを緻密に計算した。制作過程において西村教授がエスキスすることはなく、出てきたものに対してコメントをするのみだという。「学生はいろいろな役割を自然と分担し、チームになって乗り越えてきたのだと思う。私の知らないところで一生懸命やっていると思います」と、西村教授はあくまで学生の力を強調する。「建築は人の手で作られる。自分の頭で考えられる建築の構造を学生と考えていきたいという気持ちがどこかにある。ものをつくるときの力の意識、形の意識というものを、自分たちの手で作ってみる機会として貴重だ」と、西村教授は研究室で月見光路に取り組む意義を話す。
構造の面白さ
最後に、西村教授に建築構造の面白さとは何かを質問してみた。「空間構造の要素として、力と形にもう一つ“動き”を付け加えて見ると、とてもユニークなことになる」と、西村教授は神戸のワールド記念ホールの施工方法を実例として挙げた。通常、ホールなどの大空間は数十メートルの天井高さがあり、施工には足場のコストや高所での危険性がつきまとう。ワールド記念ホールでは、それらを回避するため、世界初のパンタドーム構法が採用された。ドーム頭頂部の骨格を地上で組立て、折りたたまれた構造物を最後にジャッキアップして開かせ、完成形が出来上がる。出雲市の出雲ドームにおいても、同様に動きの要素を取り入れた施工方法がとられている。「建築を学ぶ学生には、建てている最中を意識して建築を学ぶと楽しくなると伝えたい」と、ユニークな視点を示す西村教授であった。
研究室メンバーに聞きました
[ 質問項目 ]
建築に興味をもったきっかけや、西村研究室の魅力、将来のことについてお答えいただきました。
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寺林 颯太 てらばやし そうた (学部4年)
建築を学んだ姉から、建築について話を聞くことがあり、建築に興味 を持つようなりました。「風荷重を 受ける空気膜構造の動的応答解析」 を研究テーマに、構造全体が安全性を失う限界風圧レベル・内圧の 関係を調査しています。 学部4 年
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平野 大河 ひらの たいが (学部4年)
祖父母の家を祖父が設計したことに憧れ、建築を通して社会に貢献 したいと思うようになりました。内 圧と外圧のバランスで成り立つ空気 膜構造に強風が吹いた際、構造全 体が安全性を失う限界風圧レベルと内圧の関係を調査しています
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福森 郁斗 ふくもり いくと (学部4年)
テンセグリティー構造は圧縮材が不連続で、引張材が連続する構造で す。テンセグリティー構造の身近な ものに人体が挙げられます。テンセ グリティー構造を安全に形状変化させるため、障害物を設定して形状変化の検討を行っています。
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笠松 直斗 かさまつ なおと (学部4年)
建築分野に興味があったので建築学科に進みました。建築を学ぶ中 で、建造物の構造の仕組みを詳し く知りたいと思うようになり西村研 究室を選択しました。「3Dプリン ティング形状最適化」が研究テーマです。
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土井真之介 どい しんのすけ (学部4年)
構造解析ソフトを使っている姿に憧れ、西村研究室に進みました。現 在は「3Dプリンティングされるセ メント系構造の形状最適化」を研 究テーマに、パブリックスペースに 置かれるベンチを構造の側面から形状の最適化を探っています。
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星山 航祐 ほしやま こうすけ (学部4年)
ものづくりが好きだったので建築学科に進学しました。西村先生の人柄 に惹かれたため西村研究室を選択。 「3Dプリンティングされるセメント 系構造の形状最適化」を研究テー マに、建築物の構造最適化に取り組んでいます。
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今井 壱晟 いまい いっせい (学部4年)
建築に興味があったため建築学科に進み、構造に興味があったため 西村研究室を選択しました。「膜構 造の形状解析」が研究テーマです。 解析により、膜構造の形状を最適 化することに取り組んでいます。
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北市 貴裕 きたいち たかひろ (学部4年)
実家のリフォームをした際に、将来 建物の仕事に携わりたいと思うよう になりました。西村研究室には、プログラミングを触ってみたかったので入りました。「膜構造の形状解析」 が研究テーマです。膜構造の形状 の最適化に取り組んでいます。
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中島 健太 なかしま けんた (学部4年)
地元に有名建築家が設計した建築 物がいくつかあり、その建築を見たり使ったりして育ったので、建築に 憧れるようになりました。構造解析ソフトを身に付けられるので西村研究室に進学。膜構造の最適な形状 の解析に取り組んでいます。
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和田祐人 わだ ゆうと (学部4年)
数学が好きで、生活の中で数学が 使えそうな建築に興味を持ちました。構造系の先生の中から西村研 究室を選びました。「ベンチの形状 最適化」が研究テーマです。3Dプリンティングされるセメント系構造 の形状の最適化を探っています。
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